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仙台高等裁判所 昭和32年(ラ)2号 決定 1957年2月18日

抗告人 山本和男(仮名)

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「和男」を「和夫」に変更することを許可する。

理由

抗告人は本件抗告の趣旨として主文同旨の裁判を求め、その理由とするところは別紙記載のとおりである。

よつて按ずるに、抗告人提出に係る戸籍謄本、判定書と題する書面、福島県辞令書二通、同県教育委員会辞令書二通、同県○○○町教育委員会辞令書、郵便はがき五通(以上いずれも真正に成立したものと認める)の各記載及び原審に於ける抗告人本人審問の結果を綜合すると、抗告人は昭和二年七月○○日生れで、昭和二十一年頃より福島県安達郡○○村立小学校、同郡○○○町立小、中学校等に於て教諭として奉職し来れるものなるところ、昭和二十一年に施行された教員適格審査に当り、福島県教員適格審査委員長より、抗告人の氏名を「山本和夫」と誤記した判定書の交付を受けた結果、爾来今日に至るまで教職関係に於ては「和夫」として取り扱われているのは勿論、一般社会生活の面に於ても本名「和男」を使用せず、「和夫」を通名として使用し来り又他より「和夫」を以て呼称されて来りたることを認め得る。

右のように、抗告人が継続して十年以上もその奉職する教職関係から「和夫」として取り扱われ、社会生活の面においても「和夫」を通名として使用し、又社会一般からも「和夫」を以て呼称されて来たような場合には、抗告人に於て今更ら右通名の使用を廃し本名の「和男」を使用することは反つて抗告人の社会生活上不便と混乱をまねく虞れあることは容易に想像し得るところであるから、斯る事情の下に於ては、むしろ戸籍の上に於ても「和男」を変更し通名の「和夫」に一致せしめる方がより適当であると考えられる。したがつて抗告人の本件名の変更の申立は正当な事由があるものと認め之を許可するのが相当である。然るに右と所見を異にし抗告人の本件申立を理由なしとして却下した原審判は失当であるから、之を取消すべく、なお当裁判所は自ら本件につき審判に代わる裁判をなすのが相当であると認め、家事審判規則第十九条第二項に則り主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 石井義彦 裁判官 上野正秋 裁判官 兼築義春)

(別紙)

(抗告の理由)

さきに福島家庭裁判所に名の変更の申請理由を詳細申し述べましたが抗告人は昭和二十二年より引続き現在まで小学校教師として奉職している者であります。

昭和二十二年教職員適格審査委員会より交付されました教職員員適格審査書に示されていました「和夫」を字劃少なく且つ同音の平易なものとして使用し始めそれ以来県及び学校の書類その他学族内外の通信、親戚、友人及び卒業生間の書面も「和夫」を慣用して参つたものであります。

此の間、教師として実社会に送り出した児童生徒は余りにも多数であり、児童生徒達は教わつた教師の名は山本和夫として記憶され、現在も尚、賀状、その他の書面にも「夫」の字で往復されており、現に在学している児童達も又「夫」で種々の書面が書かれて参つている現状であります。

今ここで児童生徒達に和夫の「夫」は間違いであり和男が正しいものであるからと訂正していくことは、教師として本当に心苦しき限りで誠に忍びがたき所なのでありますと同時に今後、県及び学校関係においても教員免許状取得、恩給受給、扶養家族手当受給等の際に種々困難なことが生じて参ります。

昭和二十二年より昭和三十二年の今日まで十年間社会生活のあらゆる面に対して和男を和夫として慣用してきましたことは当初、私の不用意の致すところで今回種々御手数を煩わしますことは恐縮に耐えないのでありますが右に申し上げました事情なので社会生活に多年用いました和夫を今後とも継続使用していきたいのであります。この変更によつて社会的に他人に迷惑又は損害等をかけるようなことは断然ありませんし又、致そうという考えは毛頭ございませんことを誓いまして、この際是非とも正式に改名いたしたく抗告に及んだ次第であります。

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